アトピー性皮膚炎
どんな病気?
 皮膚が異常な過敏反応をしめし、かゆみを伴う特徴的な湿疹が繰り返し慢性的に起こります。 小児の10%程度がかかっているとされますが、成人になるにつれ症状が軽快していく人が多いようです。
ただ、一旦治ったようであっても、成人してから再発する患者さんも多くいます。
アトピーとは「奇妙な、とらえどころのない」という意味で、その名の通り確たる原因はまだわかっていません。
年単位の長い周期で軽快・悪化を繰り返し、なかなか治りにくいため、社会的に注目されている病気の一つです。

アトピー性皮膚炎は、次の3つが要因となって発症すると言われています。
  1.  アトピー素因(アレルギーを起こしやすい)を持つ人
    患者ご本人、あるいはそのご家族が、気管支喘息やアレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎などのアレルギー性の病気を患っていたり、食物アレルギーのある人に多く発症するようです。乳児期では卵や牛乳などの食物アレルギーで、幼児期以降ではダニや埃、カビなどのハウスダストが中心となってアレルギー反応を起こします。
  2. 特殊な肌タイプ
    乾燥肌の人や、皮膚のバリア機能が低下した敏感肌の人。
  3. 皮膚への刺激
    ウールなどのチクチクする素材の衣服、エアコンの風、汗、汚れ、紫外線、乾燥、 刺激の強い石けんやシャンプー、化粧品やヘアケア製品の成分、皮膚をひっかくことなどが刺激となります。
こんな症状があらわれます
がまんできないほどの、強いかゆみを伴う湿疹が出ます。かきこわして、化膿することもあります。
アトピー性皮膚炎の特徴は、湿疹の部位や状態が年齢と共に変化することにあります。

 
乳幼児期: 顔や頭、耳などに赤いジクジクした湿疹が出て、耳の付け根が切れることもあります。 おむつで覆われている部分にも湿疹が出やすいです。
幼児・学童期: 皮膚全体がカサカサに乾燥して硬くなり、湿疹はひじや膝の内側、首、背中、胸、お腹にも広がります。 特に肘の前、膝の後ろに、左右対称の湿疹が出てきます。
思春期・成人期: 重症化・慢性化する傾向があります。湿疹が全身にあらわれ、皮膚が分厚くなったり、赤褐色に変色したり、 また色素が抜け落ちることもあります。特に、顔・くび・胸・背中などの脂漏のたまりやすい部分に、赤みを伴う湿疹が出てきます。
こんな検査で診断します
症状を悪化させる因子が何かを探したり、また治療の効果を判定するために
数多くの検査を行います。
  1. 血液検査
    • IgE値
      IgE値とは免疫に関わるたん白質のことで、アトピー性皮膚炎の患者さんの多くはこの数値が上昇します。
      しかし、アトピー性皮膚炎の患者さんの内2〜3割の方はIgE値が正常範囲であることや、 病気の状態とIgE値が比例しないことも多くありますので、参考として考えます。
    • 特異的IgE
      アレルゲン(アレルギーの原因物質)を検索するために行われます。 各アレルゲン別に0〜6の7段階のスコアで表示され、スコア6になると重症のアレルギーがあると診断されます。
    • 好酸球の数
      白血球の中の一種類である好酸球が、白血球全体数の中でどれくらいの割合であるかを測定します。 アトピー性皮膚炎の患者さんは、好酸球の数が多い傾向にあります。
    • LDH
      皮膚や肝臓などに含まれている、体内の酵素。この酵素が血液中に多く出てくるとき、皮膚では炎症が起こり、 破壊されている状態と言えます。
    • TARC
      「ケモカイン」と呼ばれる蛋白質の一種です。「ケモカイン」とは、傷ができたときに、白血球を呼び寄せるための物質と言われています。 最近、TARCとアトピー性皮膚炎の症状との間に強い関連性があることがわかってきました。 つまり、アトピー性皮膚炎の炎症が強いときにはTARCの値は上昇し、炎症が治まってくるとTARCの値は低下します。
  2. 皮膚検査
    皮膚に原因と考えられるアレルギー物質をつけて、皮膚の反応を見る検査です。
    • スクラッチテスト
      原因と思われるアレルギー物質を皮膚にたらして、針で少しだけ皮膚を引っ掻きます。 たらしたアレルギー物質がアレルギーの原因である場合には、15分後に赤くなるか、蚊にかまれたような湿疹が出ます。
    • 皮内テスト
      原因と思われるアレルギー物質を、針で皮膚内に入れます。
      皮内に入れたアレルギー物質がアレルギーの原因である場合には、15分後に赤くなるか、蚊にかまれたような湿疹が出ます。
    • パッチテスト
      原因と思われるアレルギー物質を、皮膚に貼り付けます。 その状態のまま、2日間(48時間)、3日間(72時間)後に、赤くなるかどうかを見ます。
  3. 食物負荷試験、食物除去試験
    ある食物が、アトピー性皮膚炎の悪化因子となっているのかどうかを調べるために行います。 実際にその食物を食べたあとで、湿疹が出るかどうか皮膚の状態を観察します。 皮膚に変化が出たら、今度はその食物を除去し、症状が改善するかどうかを観察します。 症状がきつく出る危険性があるので、外来ではなく入院での検査になることが多いです。
こんな治療法があります
アトピー性皮膚炎にならないようにするための予防法、なってしまった場合の治療法をご紹介します。

■日常生活でできる予防法
  1. アレルギー反応を起こす原因物質を取り除く
    特にダニ対策をしっかり行うことが重要です。 人間やペットの毛、フケや垢、埃りなどはダニのえさであり、ダニの温床となります。
    • 室内の掃除をこまめに行う 掃除をしやすいようにシンプルな部屋にすることも大事です。
    • 部屋の中で、ダニの温床となるものを避ける
      床は絨毯よりフローリング、ソファは布製より革製かビニール製の方が良いでしょう。
      ぬいぐるみは定期的に洗濯しましょう。
    • 頻繁に換気を行う。
    • 週に1回は布団を戸外に干す。
    • ペットは室外で飼う。
  2. 皮膚を清潔に保つ
    毎日、入浴やシャワーを浴びて、皮膚についた原因物質や汗、汚れ、古い薬、雑菌などを洗い流しましょう。 石けんやシャンプーはよく泡立てて、手のひらを使って優しく洗います。ゴシゴシとこすって洗うのはやめましょう。 身に着ける衣類やシーツも、常に清潔にしておきます。
  3. 保湿して皮膚の乾燥を防ぐ
    アトピー性皮膚炎になりやすい人は、乾燥肌の人が多いです。皮膚が乾燥すると、バリア機能も低下します。 入浴やシャワーの後は5分以内に保湿剤を塗り、皮膚の水分を保ちましょう。
  4. 衣類に気をつける
    ハイネックやウールの下着・靴下などはチクチクとするので、皮膚に刺激となります。 直接皮膚に接することのないように気をつけるか、ウール素材の下着や靴下は避けましょう。

■治療法
上記の予防法を行うと同時に、根気よく治療を続けましょう。 アトピ−性皮膚炎は体質によるものですから、「治す」というよりも「うまく付き合っていく」ことが重要です。
  1. かゆいときは、かかずに冷やす
    かくとさらに症状が悪化するので、かかないことが重要です。冷やすと、かゆみはマシになると言われています。 かゆみが強いときは、冷たいおしぼりか、保冷剤をハンカチなどでくるんで、かゆいところに当ててみましょう。

  2. かゆみや湿疹があるときには、ステロイド剤を皮膚に塗り、かゆみを抑えるために抗ヒスタミン剤を内服します。 毎日、単調な作業でイヤになるときもありますが、医師と相談しながら症状を抑えるようにしましょう。
  3. 症状を悪化させる食品を避ける
    原因となる食品が検査ではっきりと判明している場合は、その食品を制限する必要があります。
  4. 夏は虫さされに、冬は乾燥に注意
    夏は虫さされが原因で、症状が悪化する場合があります。虫除けスプレーを使うなど、虫に刺されないように注意しましょう。 冬は、乾燥するため症状が悪化する人が多いです。保湿をしっかり行いましょう。
  5. 夜、ひっかかないように
    特に乳幼児は、夜、寝ている間に引っ掻いてしまうことが多くあります。
    次のような工夫をしましょう。
    • 爪を短く、丸く切る。
    • 肌が露出しないようなパジャマを着る。
    • 寝るとき用の手袋を付ける。